演劇ノンタス

雑記ブログ

非正規社員の夢

数年前の話。

同僚のAさんとBさんが会社を退社することになった。

「自分たちで会社を作る」と独立したのである。

 

ワシは思った。

 

「別にやめんでもいいのに。正社員なんだし、福利厚生もしっかりしてんだから、定年までおったらええのに。仕事なんて、言われたことだけやってりゃいいんだし、給料も毎月25日にきっちり振り込まれる。何でわざわざイバラの道を歩むの?」と。

 

AさんもBさんも温厚でやさしく、人格的にもすばらしい人たちで、ワシは二人と会えなくなるのが、残念で仕方なかった。

 

しかし、途中で、まてよと思った。

 

「正社員が2人やめるということは、もしかして、ワシ、繰り上げで正社員に昇格するんとちゃうか? この職場に来て結構長いし、これは志村けんパターンになるぞ」と。

(注・志村けんパターンとは、1974年、荒井注ドリフターズを脱退後、見習いだった志村けんが正式メンバーに昇格したことをいう。ワシの造語)

 

そう考えると、AさんとBさんが職場を去る寂しさはどこへやら、急にハッピーな気持ちになった。

 

「正社員になったら、車を買い替えよう」とか、「1ランク上のマンションに引っ越そう」とか、「結婚相談所に登録しよう」とか、いろいろ夢想する毎日がはじまった。

 

仕事中、自然とムフムフ笑みがこぼれ、他の社員から気味悪がられもした。とにかく、ランラン気分で浮足が立ちまくった。

 

 

ところが、である。まてどくらせど、正社員の話を会社は持ってこないのである。

 

「何しとんねん?はよもってこいや」とイライラを募らせておったら、なんと会社は、あろうことか、「正社員募集」の求人広告を出したのである。

 

ワシは怒った。

 

「こんな優秀な人材が目の前におるのに、どんだけ節穴やねん? しかも、広告に書いてある『まじめでやる気のある方、歓迎』ってなんやねん?勤務中にネットサーフィンやっとるワシへの、当てこすりかい!」と。

 

ワシは会社を辞めることを決意した。だが、すぐに思いとどまった。

 

というのも、ワシには、AさんやBさんのようなスキルがないし、自動車免許以外に使える資格は何も持っていない。勢いで辞めたところで、就活に苦労するのは目に見えたからだ。

 

だから、ワシは転職に有利な資格を取得してから、辞めることにした。

 

どの資格をめざすか、いろいろ考えた結果、宅建主任者の資格をめざすことにした。

 

それからは猛勉強の日々が始まった。通勤時間は参考書を読み、会社の飲み会もすべて断り、半年間、ひたすら勉強に打ち込んだ。

 

そして迎えた受験当日。コンディションはバッチリであった。試験にも手ごたえはあった。合格まちがいなし。来年からは宅建主任者だ。あんなクソ会社とはオサラバだ。そう確信した。

 

ところが、である。結果はまさかの不合格であった。

 

ワシは落ち込んだ。しばらく立ち直れない日々が続いた。

 

合格発表から数日後。さらなる衝撃的な事件がワシを襲った。

 

新聞を読んでいたら、なんと、『ぼく、宅建主任者』という見出しと共に、小学生が宅建主任者試験に合格したという記事が、載っておったのである。

 

満面の笑みで合格証を片手にピースしている少年の写真。

 

それを見て、「ワシは小学生でも受かる試験にワシは落ちたのか・・」と、情けなさと怒りでいっぱいになった。

 

だから、「小学生のおまえが取得したところで、すぐに就業できんやろ! 人の傷口に塩を塗るマネしやがって! 小学生なら小学生らしく、ドッジボールだけやっとけ!」と、写真に向かって、思いっきり説教してやった。(八つ当たりの極み)

 

あれから数年。自分は未だに契約社員として、件の会社で働いている。だが、今は正社員になりたいという気持ちはなくなった。

 

コロナ禍となり、職を失う人や、潰れる会社が続出している中、ワシのような永久に半人前のような輩を年1回の更新ながらも、ちゃんと契約して雇ってくれるなんて、今の会社はなかなか度量が大きいじゃないか。ありがたいじゃないか。もう正社員にこだわるのはやめようと、そう考えるようになったのである。

 

 

正社員の夢も、宅建主任者の夢もあきらめた自分に残された最後の夢。それは、このブログの人気に火が付き、大ブレークすることである。

 

書籍化、映画化で一躍、時の人に。

 

職場でも「君にこんな隠れた才能があったとはね。能ある鷹は爪を隠すとは、このことだね」とか、

「あなた、本当はすごい人だったのね。見直したわ。今まで『無能の人』とか、『丸出ダメ夫』とか、言ってごめんね」

 

と、評価が一変して、絶賛の嵐。そんな日が来ることを妄想しながら、毎日仕事をこなしている。

 

ちなみにこのブログの先月のPV数は、たったの「8」

 

道のりは限りなく限りなく遠い。