ウルトラマンとハヤタ君
先日、会社のテレビで『アッコにおまかせ』をみていたら、「シン・ウルトラマン」の話題をやっとった。
すると同僚のA子さんが「これこないだ、息子といっしょにみてきたで」と言った。
僕が「どうでした?」ときいたら、A子さんは「斉藤工がめっちゃ男前やったわ~」と答えた。
「そういうことじゃなくて、中身ですよ。特撮シーンとか迫力ありました?」ときいたら、「しらんがな。私、息子がみたいゆうから、連れてっただけやし。ウルトラマンと怪獣のドッタンバッタンなんか1ミリも興味あれへんわ。私にとって、あの映画。斉藤工以外、ただの風景やった」と、答えた。
もしA子さんみたいな感想ばかり、ネットにあふれとったら、庵野秀明もさぞかし口あんぐりとなるであろう。
さて、A子さんの息子さんは現在、小学1年生でウルトラマンに夢中になっているそうだ。
右手にウルトラマンのフィギュア、左手に怪獣のフィギュアをもって、「ボカーン』「ズキューン」と遊んでいるそうだ。
自分も小1の頃、まったく同じ遊びをしておった。
当時の自分にとって、ウルトラマンはただのヒーローではなく、神様であった。
今、こうして平穏無事に暮らせているのは、ウルトラマンが地球を守っているおかげだと、本気でそう思っていた。
テレビの向こうの世界で起こっていることは、真実だと思い込んでおったのである。
そして、その盲信ゆえ、幼き僕は、大いなる不安と日々たたかっていた。
その不安というのは、もしも怪獣がうちの町に現れたら、どうしようということだ。
自分はめっちゃ鈍足なので、ぜったいに逃げ切れない。どこかに安全な隠れ場所はないか?何か策はないか?
日々、この問題に頭を悩ませていた。いくつもの眠れない夜を過ごしていた。
そんなある日、隣のクラスにハヤタ君という少年が存在することを知った。
ハヤタといえば、ウルトラマンに変身する科学特捜隊のハヤタ隊員と同じ苗字である。
僕はとっさに『この子、ウルトラマンの息子ではないか?」と思った。
ハヤタ君と仲良くしておけば、怪獣が現れたとしても、ウルトラマンは優先的に自分を助けてくれるかもしれない。
そのような計算が働いた。
僕はハヤタ君に近づくことにした。
彼のお気に入りになるため、僕はハヤタ君にコビを売る生活をはじめた。
ハヤタ君が下校時に荷物をもっていたら、「重そうだね。僕が少し持ってあげるよ」と親切を装った。
給食にプリンが出れば、「ハヤタ君。僕のプリンあげるよ」と献上した。
とにかく、ハヤタ君に気に入られよう、気に入られようと努力した。
このようなペコペコ生活をはじめてから、数日がたった、ある日のこと。
いつものようにテレビのウルトラマンをみていると、ゴモラという怪獣が現れて、なんと、大阪城を叩きこわしたのである。
大阪城といえば、先日、学校遠足で行ったばかりの場所である。
僕はパニックになって、台所の母に「お母ちゃん、大変や。大阪城が破壊されたでえ」と訴えた。
母は「えー!?」と仰天声を上げたが、僕がテレビを指差すと、「なんや。ウルトラマンの話かい。しょうもない」と吐き捨てた。
「なんでやねん。えらいこっちゃやんけ」と言うと、「あんなあ。あれはぬいぐるみのショーや。うそ話や」といった。
僕が「うそちゃうて」と言うと、「ほな言うけど、ほんまに怪獣が暴れまわってたら、ニュースや新聞で大々的に報じるやろ。いっこも報じてへんのは、おかしいやんけ。なあ」と母に言われた。
言われてみれば、そのとおりである。
からくりがわかった瞬間であった。
しかし、僕はウルトラマンが実在しないことにあまりショックをうけなかった。
それよりも、「怪獣に襲われたらどうしよう」という心配事がなくなり、ほっと胸をなでおろした。
なんや。怪獣はおらんのか。よかったよかった。
その晩は久しぶりにグッスリと安眠できた。
翌朝。登校と同時に隣のクラスに向かった僕は、ハヤタ君に会うや、開口一番こう言い放った。
「おい、ハヤタ。こないだのプリン返せ」
余りの態度の豹変ぶりに、ハヤタ君は口あんぐりとなっておった。
今週のお題「何して遊んだ?」