演劇ノンタス

雑記ブログ

ビンタ入学式

昨日、会社で、テレビみてたら、小学校の卒業式のニュースが流れていた。すると、大学生のバイト君が「オレの小学校の卒業式は、結構、インパクトのある事件おきたんすよ」と言うので、「え、何がおきたん?」と興味津々で聞くと、彼はこんなエピソードを語りだした。

 

「卒業式で『蛍の光』をみんなで合唱したんすよ。で、歌い終わった後、着席したら、うしろから、『あかん、あかん、お前ら、全然声が出てへんやないか!』という声が聞こえてきたんすわ。

 

振り返ったら、保護者席で、どっかのおじいさんが立ってたんすよ。めっちゃ怒り顔でね。で、そのおじいさんが『ピアノの音ばかり、聞こえて、お前らの声、全然聞こえへん! パチンコ屋の閉店BGMちゃうねんぞ!』と怒鳴ったんすわ。

 

でね、進行役の先生が『式の最中なのでお静かにお願いします』とヤンワリ注意したんすけど、おじいさんの怒りおさまらんで、『そんな元気ないなら、中学生活とてもやってかれへんぞ!』と、ガンガン吠えまくるんすわ。

 

で、先生もこのジジイに何いうてもダメ思ったんでしょうね。おじいさんに『わかりましたー!』って返事した後、オレらに向かって、『みんなー、もう1回、蛍の光を歌おう! どうせ全員で歌うの最後やから、思いっきり声出して歌おうや!』と言うたんすわ。

 

そしたら、ピアノの音鳴り出して、異例のやり直しが始まったんすわ。オレらも「また歌うん?でもまた声小さかったら、あのおじいさんにダメ出しくらうな。しゃあない。こうなったら、でかい声で歌おうか」いう気になって、みんなめっちゃ声をはりあげて歌ったんすよ。情緒も音程もなにもない、シャウトでね、『蛍の光』をがなり散らしたんすよ。みんな半分笑いながらね。

 

で、歌い終わった後、おじいさんを見たら、『なんや、やればできるやないか! 卒業おめでとう!」ゆうて、さっきまでの鬼の顔がウソのような笑顔で、拍手しだしてね。ほんだら、他の保護者もドーっと笑った後、一緒に拍手しだして、オレらも何でかわからんけど、自分たちで拍手して、めっちゃ盛り上がったんすよ~」

 

と語った。1歩間違えれば、式自体、台無しになるハプニングが、一転、『生涯、忘れられない、楽しかった卒業式』となったわけである。

 

感動した僕は「それ、めっちゃいい話やな。僕もその場にいたかったわ~」と素直に感想を述べた。バイト君は「でしょー」と嬉しそうに言った。

 

で、彼が「先輩は思い出に残ってる卒業式とか入学式、あります?」と訊いてきた。

 

ないことはない。ただし、それは彼のエピソードのような感動とは無縁。むしろ、真逆の、トラウマに近い形で忘れられない思い出なのだが・・。

 

 

あれは高校の入学式でのことだ。その日、新入生は体育館に集められ、僕もそこで、式が始まるのを今か今かと待っていた。

 

で、僕の前に座っている男子2人が、同じ中学なのか、知り合いなのか知らんが、とても仲よさげにおしゃべりをしていた。他にもおしゃべりをしている生徒は結構いたが、「ただいまより、入学式を行います」のアナウンスが流れると、皆、一斉に会話をやめた。

 

ところが、前の2人は、式が始まってから、1分もたたないうちに、またおしゃべりを(小声ではあるが)、はじめたのである。

 

国歌斉唱の間も、入学宣言の間も、ずっとペチャクチャペチャクチャしゃべりつづけておる。後ろにいる僕は「よくまあ、そんなにしゃべれるなあ」とあきれ半分、感心半分という気持ちでおった。

 

しかし、校長の式辞が行われている最中、ついに事件が起きてしまった。

 

会場の端におった体育教師が「そこの2人! こっち来い!」と怒鳴ったのである。

 

当の2人はまさか自分たちの事とは、思っていないので、最初、キョロキョロしておった。だが、体育教師に「角刈りと坊主のお前らじゃー! メガネの前におる二人組じゃー!」と怒鳴られ、「はっ」と自分たちの事だと気づいたわけである。(ちなみにメガネというのは、僕のことですね)

 

青ざめた顔で体育教師の前に立つ2人。腰に手を当てた体育教師に「なんで呼ばれたかわかるよなー?」と聞かれて、2人は小さくうなづいた。

 

そして次の瞬間、新入生、保護者、来賓、教職員、在校生が注目する中で、「バシーン!」「バシーン!」という体育教師のビンタが、2人の顔面に炸裂した。

 

「戻れ!」と体育教師に命じられた2人は、目に涙、頬に手形をつけて、僕の前に戻ってきた。

 

何より驚いたのは、その後、まるで、何事もなかったように、校長がスピーチの続きをはじめたことである。それもニコニコ笑顔で・・。

 

うなだれる2人の背中を見つめながら、「と、とんでもねえ高校に入学しちまったよ~」と僕は恐怖でブルブル震えたのであった。

 

時は1990年代。元号は平成であったものの、まだそういう教師が、教育の現場には残っていたのである。 

 

・・・と言うエピソードをわりと沈痛なトーンで、話したところ、バイト君はなんと、手を叩いて爆笑し、「サイコーっすね! 昭和の入学式!」と言った。

 

「いや、一応、平成なんだけど・・」

「オレがそこにいたら、絶対、スマホで撮影してましたよ!で、ソッコー、ユーチューブにアップしてますよ!」

「いや、その時代、スマホもユーチューブもないし・・」

「そんな面白い映像、絶対バスりますよ! 余裕で百万回再生いきますよー! タイトルはそうっすね、『ビンタ入学式』。これでいきましょう!」

 

・・・僕の訂正をひたすら無視して、架空の儲け話に花を咲かせる令和の大学生。

 

はちゃめちゃ年下の若者に、おちょくられている、情けなさと悔しさで、僕は久々にブルブルと震えたのであった。